鈴木壯兵衞

すずきそうべえ

そうべえ国際特許事務所

[ 弘前市 ]

職種

コラム

 公開日: 2013-07-06  最終更新日: 2015-03-15

第4回 特許出願ではなく、形式知の蓄積が重要(必ずしも特許出願しなくてもよい)

1.市場価値を生み出す源泉は無形資産

固定資産には土地・建物等の有形固定資産の他、無形固定資産及び投資その他の資産がある。「投資その他の資産」には、関連会社株式、投資有価証券や長期貸付金等が含まれる。米国のブルッキングズ研究所の研究成果等によれば、スタンダード&プアーズ社が選ぶ500社(S&P500)に該当する米国企業においては、市場価値を生み出す源泉の割合は、1975年では有形資産83%:無形資産17%であったが、2005年では有形資産20%:無形資産80%になっているという。イギリスのインターブランド社の報告では、1970年代の「企業価値の源泉は、有形資産50%:無形資産50%」でしたが1990年代には「有形資産25%:無形資産75%」となり、2010年代には「有形資産20%;無形資産80%」と推移すると予測している。

国際会計基準における無形資産と我が国の無形固定資産とは、一般に同一であるとはいえない。我が国の会計基準では、「営業権、特許権、地上権、商標権等は、無形固定資産に属するものとする。」(企業会計原則 第三 4(一)B)とされているが、無形資産についての一般的な定義は明示的には示されていない。一般には無形資産は有形資産の対概念であるが、市場・会計的なアプローチからは、無形資産は企業価値から金融資産と有形資産を除いたものと定義される。企業価値は、将来のキャッシュフローや収益力から算出される。我が国の会計基準における無形固定資産には、知的資産等の法律上の権利、のれん等の経済上の権利、更にはソフトウェア等が含まれる。

「知的資産」とは、従来のバランスシート上に記載されている資産以外の無形の資産であり、企業における競争力の源泉である。人材、技術、技能、知的財産(特許・ブランド等)、組織力、企業理念等、財務諸表には表れてこない目に見えない経営資源の総称である(中小企業基盤整備機構 知的資産経営マニュアルp5参照。)。

2.知的資産のうちの構造資産が重要

「知的資産」には、人的資産、構造資産及び関係資産の3つがある。「人的資産(Human Capital)」とは、属人的資産であり、個人に従属する資産である。このため、人的資産は、従業員が退職時に企業から外部に持ち出すことのできる資産である。人的資産には、ノウハウ、イノベーション能力、人脈、経験、学習能力、経験等が含まれる。

知識には「暗黙知」と「形式知」があるが、人的資産は、暗黙知としてのノウハウ、経験、能力及び技能等と、属人的な形式知としてのノウハウ等に分類できる。「暗黙知」は個人の脳の内部にノウハウ等の形で格納された知識であり、「形式知」は文書等の形式で、脳の外部に表現される知識である。

「構造資産(Structural Capital)は「組織資産」とも呼ばれ、従業員が退職しても組織(企業)に残る資産である。この従業員が退職時に組織(企業)内に残すことのできる資産には、特許権、商標権、データベース、マニュアル、システム、組織の仕組みや柔軟性、企業理念等が含まれる。

「関係資産(Relational Capital)」は、企業の対外的関係に付随したすべての資産であり、共同研究の成果、供給業者との関係、銀行や支援者との関係、顧客との関係(顧客満足度、顧客ロイヤリティ)、イメージ等が含まれる。人的資産、構造資産及び関係資産の3つを考慮したとき、人的資産を、如何に構造資産に移動し、再配分するかが組織(企業)にとって重要であることが分かる。

構造資産(組織資産)及び関係資産も「暗黙知」と「形式知」に分類できる。即ち、形式知としての「広義のノウハウ」と暗黙知としてのノウハウの2つに分類できる。形式知としての「広義のノウハウ」には、不正競争防止法で規定された営業秘密(狭義のノウハウ)、限定的に公開可能な形式知、及び公開可能な形式知がある。限定的に公開可能な形式知としては、一部公開や譲渡が可能であるが、全体としてはブラックボックス化された技術が含まれる。公開可能な形式知には、特許権、実用新案権、意匠権等が含まれる。暗黙知としてのノウハウには、組織(企業)としての伝統やチームワーク等が含まれる。


コカ・コーラの風味は、香料7xと柑橘系およびスパイス系のフレーバーの7~ 8種類程度の配合によるものと言われる。このうち香料7xの成分はコカ・コーラ社のトップシークレットであり、成分を知っているのは最高幹部のみということである。この香料7xとその他のフレーバーの配合レシピが「フォーミュラ」と呼ばれる形式知に情報の加工がされ、1919年からアトランタの銀行の金庫に保管されているということである。

3.中小企業や農林水産業従事者には、「暗黙知」を「形式知」にする努力が必要


2012年版中小企業白書の第3-1-8図には、技術競争力が低下していると回答した中小企業の技術競争力の低下の理由がグラフとして示されている。その理由の69.6%となる圧倒的に多い理由は、「技術・技能承継がうまくいっていない」ということであるが、技術・技能を円滑に承継するためには、技術・技能を形式知にして可視化することが必要になる。

特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願等をする以前に、中小企業や農林水産業従事者等には、自己の事業に係る「暗黙知」を「形式知」としての技術思想に変換する作業が最も重要である。特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願等は、「暗黙知」を「形式知」としての技術思想に変換した結果の一態様であり、「形式知」のすべてが公開され、特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願等される訳ではない。

「暗黙知」を「形式知」としての技術思想に変換する作業には3つの段階がある。

(a)第1段階は、自己の事業に係る作業を、個人の脳の内部にノウハウ等の形で格納された知識から、文書や図面等の形式で、脳の外部に表現し、第三者が理解可能な情報に変換する作業である。熟練技能を有する作業であっても、個人の技能にとどめないで、可能な限り、一部でもよいから、文書や図面等の形式にまとめて第三者が理解可能な情報に変換して、組織(企業)の知的資産として残す努力が必要である。

(b)第2段階は、第1段階でまとめた自己の事業に関して、その作業等の技術的な問題点を、文書や図面等の形式でまとめて第三者が理解可能な情報に変換する作業である。どんな技術にも完璧なものはなく、必ず何らかの問題があるはずである。中小企業の従業員等に現場で発生した問題点等を日報や週報等の形式でまとめさせて、記録に残し、それを組織(企業)の知的資産として蓄積する作業が重要になる。

(c)第3段階は、第2段階で蓄積した自己の事業に係る技術的な問題点の解決手段を検討して記録に残す作業である。解決手段が不十分、未完成であっても、どんな提案でもよいから、失敗例を含めて記録に残し、継続して検討することである。特許の明細書では失敗例を比較例や検討例として記載する必要があるので、必ず失敗例を記録に残して欲しい。これらの失敗を含む継続して検討した結果が、組織(企業)の知的資産として蓄積されるのである。必ず特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願等をしなくてはならないのではない。第3段階の作業の結果蓄積された知的資産の一部が、特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願等されればよく、公開しないでノウハウとして秘匿するのも重要な選択である。ノウハウとして秘匿する場合も、特許出願の明細書の形式でまとめることにより技術の整理ができる。

アルベルト・アインシュタインは、「私は天才ではありません。ただ、人より長く一つのことと付き合っていただけです」と述べているが、発明は天才のひらめきによるものではない。形式知としてまとめた、自己の事業に係る技術的な問題点を継続して検討することが発明につながるのである。例えばノートの左側に第2段階の問題点を記載し、ノートの右側に第3段階の解決手段を記載するという作業を人より長く継続することが、中小企業の経営者や農林水産業従事者等にとって重要な事項である。特許出願することが重要なのではなく、継続して問題点を検討し、改善を試みる日常的な態度こそが求められているのである。この作業は頭の中でなく、目と指を使って紙の上やパソコンの画面を用いて行って欲しい。


辨理士・技術コンサルタント(工学博士 IEEE Life member)鈴木壯兵衞でした。
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